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書籍のあるべきかたちを、拡張する

『LE CORBUSIER PLANS impressions』

UPDATE: 2017.02.01

本書「ル・コルビュジエ プランズ インプレッションズ」は、ル・コルビュジエの建築設計資料をプロジェクトごとにまとめ、解説文と共に掲載している。

計8巻から成るが、中でもVol.4.マルセイユの「ユニテ・ダビタシオン」に注目したい。この建築物は、1907年から1950年まで彼が主張した理念が実を結んだ、最も重要な建築物だからだ。

 しかし筆者から見て、その作品は凡庸に思えた。建築家の長きに渡る構想も、まるで改めて足し算引き算のやり方を解説されているようなのだ。
このように話すと、自分でも価値観が間違っているのかと疑ってしまう。世界に認められた作品を批判する気はない。作品を特別視するにはあまりにも、彼が尽力した近代建築運動の成果が、現在の景色に息づいているのだ。

ユニテで消化された当時の建築物の課題

ユニテ・ダビタシオン(以下ユニテ)は、第二次世界大戦後、当時のフランス技術官僚(都市計画大臣)ラウル・ドートリから発注を受けた、被災者用の大型集合住宅だ。ピロティで支えられた8階建ては、全337戸で最大約1,600人暮らすことができる。当時の課題は、戦後の復興と人口増加への対応だった。

ル・コルビュジエの建築物の根底には、彼が描いた都市計画がある。それは一部の権力が中心となったものではなく、一般大衆が活動するための都市計画だった。家族に例えてみる。
これまでが大黒柱の父に家族員が従っていたとしたら、父も母も子どもも自分の意志で動き、社会生活に関わるように変化した。大衆が多様性をもつと、それを受け入れる建物が必要になる。それがル・コルビュジエの集合住宅だった。ユニテは、単身用から4人家族向けまで、23タイプの部屋を内包している。建築物が規格化、標準化されると、このような多様性を組み合わせることができるのだ。

またこれまで平屋で構成された空間が集合住宅で効率化されると、スペースが生まれる。そこに人を効率よく運ぶ交通網ができ、そして人が余暇を楽しむオープンな空間ができる。集合住宅をベースに考えられた都市計画は、人々の暮らしを以前よりもより良くする戦後復興と、人口増加によって都市から人があぶれることを防ぐことができるのだ。

この構想は1年、2年で思いつくものではない。43年の間、ル・コルビュジエが温めて、進化させてきたものといえる。

理想の家とはなにか。更新されていくからこそ気付く新たな課題。

住まいの課題は時代によって変わっていく。今、私たちにとって理想の家、建築物とはなんだろうか。少し空想してみたい。

 昼は日光の温かさを、夜は情緒を感じたい。ネットなどを通じて家の内側でも十分余暇を楽しめるようになったので、家の中ほど解放的になりたい。住人によって壁色などDIYできればオリジナリティが発揮できる。一方で外から来る人へのセキュリティシステムが堅固で、事件が起こったときに追跡できる監視カメラがほしい(部屋の内部は勘弁してほしいけれども)。耐震・免震構造付きは必要不可欠だ。つまり、建築物の外側は守られていて、内側が自由な家なのだろう。
 すらすらと出てきた理想的な建築像の裏には東日本大震災、9.11テロなど家の外に対する不安が隠れている。不安は課題となって、住まいに変化をもたらすのだ。

現代の新たな課題は、ル・コルビュジエがつくった建築物の上に築かれていく。全く新しい建築方法を生み出すよりも、堅実な方法だろう。私たちは、彼から快適な住宅環境をプレゼントされ、慣れてしまった。
「住宅は、住む機械だ」とル・コルビュジエは語った。私たちもいつまでも革命的なWindows95を使い続けるわけにはいかない。機械とは消費され進化していくからこそ、生活に恩恵を与えてくれるのだ。

昨日を敬うことで生まれる明日がある。守るべきはなにか。

しかし振り返ってみてほしいこともある。私たちはモノや情報が更新されることに、慣れすぎてしまったのではないだろうか。スマホのOSアップデートの通知が出ると疑わずに、承認する。
会社でもペーパーレス、データ化が呼びかけられ、物質に頼らない時代が訪れる。質量を感じられない分、データへの想いが希薄になるのだろうか。スマホでは写真を何回も撮りなおすことができ、間違って削除しても「まあいっか」で終わることもある。

フィルム・カメラの時代を思い出してほしい。当時は、一枚のフィルムに焼き付けた画像を、削除も上書きもできなかった。切り取った一瞬の写真を大切に保管していた。今もデータで同じことが起きているが、私たちはその一瞬について何を想うだろうか。

本書に掲載されているル・コルビュジエの設計資料は、ほぼ手書きだ。ここに書かれた一字一句、描かれた線に、ル・コルビュジエの当時の想いが宿る。似た内容の資料が幾枚も存在するのは、加筆があるごとに、上書き更新せずに、新しく書き直すからだ。過去はまるでフィルムの写真のように、当時の姿で残り、現存している。

設計図に貼られた、補修用の古びたセロテープを見ると、なんだか過去に忘れ物をしてきたのではないだろうかと、考えにふけってしまうのだ。

SPEC

『LE CORBUSIER PLANS impressions』

『LE CORBUSIER PLANS impressions』
価格:20,736円

形式:単行本(ソフトカバー)/出版社:建築資料研究社/著者名:Echelle-1,Fondation Le Corbusier/言語:日本語
vol.1 頁数:112頁/初版発売日:2011/12/17
vol.2 頁数:104頁/初版発売日:2012/7/3
vol.3 頁数:104頁/初版発売日:2012/10
vol.4 頁数:104頁/初版発売日:2011/9/9
vol.5 頁数:104頁/初版発売日:2012/10
vol.6 頁数:104頁/初版発売日:2012/7/3
vol.7 頁数:104頁/初版発売日:2011/12/17
vol.8 頁数:104頁/初版発売日:2011/9/9

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